INSTeM Convention 2026 Spring@立命館OIC 「大人のためのリテラシー:分断の中の協同」
第3回INSTeMコンベンションの記録レポート

06/22/2026

2026年3月14日(土)、3回目を迎えたINSTeMコンベンションは、約70名の出展者と一般参加者の方々にお越しいただき、成功裡に終えることができた。今回は、4月に開設された立命館大学デザイン・アート学部との共催で、同大学の大阪いばらきキャンパス(以下、OIC)をお借りしてのコンベンションとなった。デザイン・アート学部の立ち上げを主導し、お忙しい中、さまざまなご配慮をいただき、ご登壇もいただいた、八重樫文先生、3名の大学院生のみなさんに心から感謝申し上げたい。

ここでは当日のプログラムの流れを追って概説し、最後に今後のINSTeMコンベンション、さらにはINSTeMのあり方について思ったことを記しておく(以下、敬称略)。

■文化祭前夜のような盛り上がりをみせた準備作業

当日は土曜日だったが、午前中から三三五五、19の出展者が準備を開始した。INSTeM側では過去2回と同様、2枚の板状のダンボールとそれらを立てるための脚、そして机や椅子を提供した。出展者はそれらを活用にしつつ、持参したポスターやコンピュータ、その他の機器を使って出展空間を作り上げていた。過去にも参加してくれた出展者が多く、当日のサポート要員だった立命館大学と関西大学の学生の手伝いがほとんど要らないほどだった。いつものように展示物を準備していくプロセスで、出展者の交流が始まり、会場は学校時代の文化祭前夜のような盛り上がりを見せていた。

出展ブースの準備風景
バラエティに富む出展ブースの数々

正午に、INSTeM理事長の佐倉統(実践女子大学)のあいさつ、INSTeMコーディネーターの鳥海希世子(昭和女子大学)による全体説明を皮切りに、コンベンションは始まった。なるべく多くの人々が多くの出展に触れることが出来るように、出展者をあらかじめ2つのグループに分けると同時に、出展を自由に見て回る時間帯とプレゼンテーションをおこなう時間帯を交互に設けるなどの工夫を施した。

回遊タイムの様子

くり返しいえば過去にも出展してくれた個人や団体が多かったが、その内容は以前のものを大幅にアップデートしていたり、新たな取り組みの成果を展示したり、実践するものが多く、回を追うごとにそのクオリティが上がっているという声が、INSTeM関係者の間からあがっていた。

■コミュニティ・サイエンスから音環境のAI装置まで

ここにあらためて19の団体のリストとひとこと紹介を掲載しておく。

出展者名ひとこと紹介
三谷 篤史(札幌市立大学)・川名 宏和(gekitetz Inc. / デジタルハリウッド大学大学院)工学と看護とデザインを組み合わせることで、実現できるプロダクトやメディアを研究開発しています。今回は食事介護を学習するために開発したシステムをデモします。
愛知淑徳大学創造表現学部 宮田雅子ゼミ地域とデザインをテーマに、学外との協働プロジェクトを展開し、地域の課題をデザインの力で解決するアイディアを考えています!
法とアート・デザインに関する研究会個人の思想やアートから価値を創造・更新し、これを法とデザインを用いて形にすることで領域横断的な課題解決を目指す活動です。
生活協同組合コープこうべコープこうべアプリの運営を通じて困りごとや感謝の気持ちを可視化し、助け合いの広がる地域づくりをすすめています。
宮下十有(椙山女学園大学・IAMAS)360度カメラ(全天球カメラ)の記録・撮影と映像を共有する体験・対話ワークショップによるメディア・プラクティス
関西学院大学 福山佑樹研究室科学と社会とつなぐゲーム教材「nocobon」など現代社会の諸問題を体験的に学ぶためのゲーム教材を製作・実践しています。
三宅由莉、TOOL LOVERS 、un labo.共創を促す環境要因KDKHJ(空間、道具、活動、人、時間)のデザイン
株式会社YES ANDこどもの主体性、創造性、コミュニケーション力を育むことを目的とした、こどもと文化に関わる事業やプログラムの企画制作
心理学研究コミュニティあいまいと研究者と一般市民が協同して研究を行う「コミュニティサイエンス」の実践 
岡田朋之・木村正子・藤井綺香万博の公共性についての調査研究(主にアクセシビリティからのアプローチ)
昭和女子大学環境デザイン学科 鳥海研究室「デザインプロデュース」と「メディアのデザイン」をテーマに、それぞれの問題意識から取り組んだ今年度の卒論・卒制を大公開!
長浜市社会福祉協議会福祉の「困りごと」はアイデアのタネ。当事者と地域がチームを組み、デザインの力で新しい福祉の未来を創る共創プロジェクト。
「お酒リテラシー」合同研究会酒を知り、飲酒を語る。そして、酒とともに歩む世界をより豊かに醸成することを、「お酒リテラシー」として伝えていく。
専修大学ネットワーク情報学部メディアコミュニケーションプログラム多摩区・専修大学を紹介する映像制作、市民活動団体を紹介するメディア制作等を通じて、地域社会の魅力や課題を探求しています。
ベースドラム(株) ラジ×テクチーム複合環境センサーとAIを用い、場の情報を音で共有する自立型装置の開発
杉本 凜(萩田 紀博、大谷 智子、安藤 英由樹)@大阪芸術大学大学院芸術研究科悩みやモヤモヤを上手く言葉として表現できない人に向けた生成AIとの共創による複数のアートアプローチを用いた研究
立命館大学上平崇仁研究室生身の人間の力だけでなく、さまざまな存在(モア・ザン・ヒューマン)が相互に関わり合うデザインのありかたを探求しています。
(一財)千里パブリックデザイン千里ニュータウンの生活文化・歴史の記憶を未来につなぐ
『5:Designing Media Ecology』批判的思考と実践的デザインを結びつけた新しいメディア&コミュニケーション研究のための、完全独立バイリンガル・リトルマガジン。販売します!
INSTeMコンベンション2026出展者一覧

どれも魅力的な内容だったが、ごく簡単に4つの出展をリストの順に紹介しておきたい。

■法律、シリアス・ゲーム、インクルーシブ・デザイン、お酒リテラシー

「法とアート・デザインに関する研究会」の準備風景

「法とアート・デザインに関する研究会」は、特殊なことがらと思われがちな憲法をはじめとする法を、私たちの日常生活の中にあるルールの延長線上に位置づけ、その意味合いを、条文の言葉だけではなく、アートやデザインの観点から見出せる日常生活のさまざまなことがらと結びつけて解釈し、そのあり方を考えていくという、ユニークで興味深い活動を紹介してくれた。同研究会は岡山を拠点にさかんに研究会等をおこない、文化芸術や教育、ビジネス領域での実務的な応用実践もおこなっているという。

福山佑樹氏(関西学院大学)と学生さんたち

関西学院大学の福山佑樹研究室からは、現代社会の諸問題を身をもって学ぶためのゲーム教材についての出展がなされた。当日は、科学技術と社会の諸問題に対するリテラシーを高めるためのカード型推理ゲーム「nocobon」、兵庫県知事選挙におけるSNSのアルゴリズムのバイアスやフェイクニュースの問題を起点に生み出された、ジャーナリングRPG(ロール・プレイング・ゲーム)「揺れる市民の選択」の紹介が中心であった。まさにINSTeMが目指す「大人のためのリテラシー」そのものを扱っており、福山はもちろん、優秀な2人の学生さんの説明が注目を集めていた。

長浜市社会福祉協議会のよくデザインされた出展

長浜市社会福祉協議会は、よい意味で社会福祉協議会らしくないスタイルの出展だった。福祉のさまざまな困りごとを取扱いながら、それらを新たな可能性のタネとして積極的に位置づけ、デザイン、ワークショップ、メディアなど、さまざまな関連する活動と結びつけて、地域展開を積み重ねている状況を報告してくれた。出展物やコンテンツがポップでとてもよくデザインされていたことが印象深かった。

いつも人だかりができていた「お酒リテラシー」合同研究会のブース

「お酒リテラシー」合同研究会は、今回の目玉となった出展だった。飲酒の社会的な研究に取り組んだ研究者を中心とするメンバーは、実際に造られたどぶろくなどを持ち込み、それを飲みつつ飲酒の歴史、男女にとっての飲酒の意味合いのちがい、現代の規範、飲み会のあり方など、さまざまなことがらについて議論をする場を即興的に上手に生み出していた。出展者や一般参加者はこの出展を介して、さかんに交流できていた。

村田麻里子氏による総評

最後に出展者、参加者全員が輪になって、INSTeMコーディネーターの村田麻里子(関西大学)からの総評を聞くと同時に、出展者全員が発言をし、イベントのふり返りと今後への期待を話し合った。

■デザインとアートに何ができるか

夕方からは、パネルディスカッション「分断の中の協同:デザインとアートになにができるか」が開催された。佐倉統の司会のもとで、デザインマネージメント論の八重樫文(立命館大学)と、文化社会学者で、INSTeMコーディネーターでもある毛利嘉孝(東京藝術大学)がスピーカーとして登壇した。

シンポジウム「分断の中の協同:デザインとアートになにができるか」の模様

八重樫は、立命館大学が2010年に茨木市サッポロビール工場跡地を取得することを決定して以降、茨木市との緊密な連携のもとで市民に開かれた大阪いばらきキャンパス(OIC)を開設するまでの経緯を語ってくれた。八重樫はOICのグランドデザインをおこなう中で、四方から自由にキャンパス内に出入りができるその造りに対して、大阪でそんなことをして大丈夫かという主旨の懸念の声が挙がっていたこと、しかし実際に開設されてみるとなんの問題もなかったこと等のエピソードを交え、15年の歴史をデザインマネージメントの観点から跡づけてくれた。さらに4月に衣笠キャンパスで開設されるデザイン・アート学部のコンセプトや特徴などについても概説をしてくれた。

毛利は、まず東京藝術大学が取り組むArt based researchの現状をはじめとする学内の新しい動向を概説した。さらに立命館大学のデザイン・アート学部に加え、27年度に東京大学が新設するカレッジ・オブ・デザイン(COD)など、内外の大学がアートとデザインをめぐって展開している動向がはらむ可能性と課題を、批判的に分析してくれた。

シンポジウム「分断の中の協同:デザインとアートになにができるか」にて話す毛利嘉孝氏(上左)と八重樫文氏(上右)

その後は、世界各地で絶えない戦争や紛争が国家や人々を内向きにさせ、ネット世論の分断がAIの台頭によって格差をはらんで拡大していくように見える中、人々がいかに協同していくかをめぐって、司会の佐倉やフロアの参加者の発言も含めてさかんに議論が交わされた。

「分断の中の協同」を可能にするためには、社会と大学の関わり方が従来のそれを超えて新たなものへと展開していく必要がある。最後は、INSTeMコンベンション2026の翌日、3月15日(日)に東京で開催される「ポストユニバーシティ会議」(東京藝術大学主催、INSTeM協力)の概要が毛利から紹介され、今後も継続的に議論を重ね、具体的な取り組みを生み出していく必要性が確認されて終了となった。

懇親会は、OIC内にある「ガーデンテラス・ライオン」で開催された。

驚いたことに、当日参加者の大半が参加してくださった印象で、あちこちで出展者同士の交流がさかんにおこなわれ、用意した食事はあっというまになくなった。

■領域を超えていかにネットワークするか

今回はOICの空間デザインの素晴らしさと八重樫文他の有形無形のサポートによって、スムーズにイベントを進めることができた。あらためてお礼申し上げたい。

INSTeMコンベンションの今後について、主催者の一員として、思うところを記しておきたい。これまで3回開催したコンベンションは、参加人数がいずれも100名程度と大きなものにはならなかった。とくに今回は、年度末でさまざまなイベントが重なる週末だったこともあり、70名と少なめであった。

ただしその内訳をみるとおもしろいことがわかってくる。一般参加者数は少ないものの、徐々に出展者数が増え、出展のクオリティがあがり、さらに出展者同士ののネットワークが発展してきているのだ。

INSTeMコンベンションでは、2段階の広報をおこなっている。まず出展者を募集してINSTeM内部で選定をおこなう。つぎに、出展者リストを提示した情報を公開して、一般参加者を募集する。この二重の広報がわかりにくいと、毎回、複数の問合せがある。さらに実際は、出展者は数多いものの、一般参加者にとってはややわかりにくい構成になっていたであろうことは否めない。

INSTeMは、「科学技術とメディア研究を発展させるための領域を超えたネットワーク」を意味する、Inter-field Network for Science, Technology and Media Studiesの略語である。今後は、これまでに出展をして下さった個人や団体との関係を継続的に保ちつつ、出展者相互の交流を豊かに発展させていくことに力を注ぐべきではないか。当日の活気にあふれた会場にいて、私はそのように考えた。具体的にはINSTeMのウェブサイトを活用した活動紹介や、研究会の開催などがあげられる。それを目指すためには、現在の活動のギアを一段上げて展開しなくてはならないだろう。

■今後の予定

最後になるが、INSTeMは9月に、東京藝術大学と三菱地所が開催予定のセミナーにおいて、リテラシーをキーワードとしたセッションを担当することを予定している。詳細については追ってお知らせする。

また、次は4回目となるINSTeMコンベンションについては、今のところ、2027年1月中下旬の土曜日を予定している。場所その他については未定だが、ここまで培ってきた出展者のネットワークを何らかのかたちで打ち出した形で開催することを検討している。

今後とも本財団法人の活動への叱咤激励とご支援をお願い申し上げたい。

(サブ・ディレクター:水越伸)