「推し」を語るということ
―推し語りデジタル・ストーリーテリングの展開(3)

03/31/2023
Shinya Mizojiri
溝尻真也

「推し」を語るということー推し語りデジタル・ストーリーテリングの展開(2)はこちら

前回に続き、今回も2022年8月に目白大学メディア学部溝尻ゼミが実施した、推し語りDSTの成果を紹介したい。

1作品目は「私がたこ焼きを焼く理由」という作品である。この作品ではファシリテーターを務めた先輩学生との対話がそのまま録音されている。

「私がたこ焼きを焼く理由」

ファシリテーターの3年生も、語り手の2年生と同じくジャニーズファンであり、だからこそ分かる共感が色濃く出ている作品である。一方で物語としての伏線の張り方には、短い時間ながら二人で議論を重ねた跡を見て取ることができる。

最後に紹介するのは「好きをもっと好きにさせてくれる表現」である。

「好きをもっと好きにさせてくれる表現」

メディア学部に集まる学生たちは、やはり何らかの形で表現への欲求を持っていることが多い。そしてこの作品では、彼にとっての表現欲求の根本が語られている。制作のために用意された時間も1時間と短く、また作品もあまり長いものは作れない(筆者は参加者に対して「1~3分程度にまとめること」という指示を出していた)状況で、自分が語りたいことをいかに取捨選択し的確にまとめるか、苦労を重ねていた作品である。

参加した学生からは、声だけで感情を伝えることは意外に難しかったという感想が多く寄せられた。それは私たちの普段のコミュニケーションに占める視覚の割合がいかに高いかの裏返しでもあるだろう。しかしだからこそこの活動は、相手の姿が見えない中でコミュニケーションせざるを得ない状況を経験した学生たちにフィットしたのではないか。さらに「推し」とは、自身が考えるその魅力を何とかして相手に伝えたいというモチベーションを喚起してくれる存在でもある。音声DSTの試みや、テーマとしての推し語りは、まだまだ多くの展開可能性を持っているのではないだろうか。