《日常のなかのデザイン日記 02》
トイレのピクトグラムと多様性

10/26/2023
Masako Miyata
宮田雅子

2023年2月、オランダに行ってきた。

オランダに行くのははじめてで、まずは空港に着くこと自体が楽しみだった。というのも、アムステルダム・スキポール空港といえば、書体デザイナーのアドリアン・フルティガーが設計した書体Frutigerを使った完成度の高いサインで有名な空港だからだ。ただ今回は、空港の話ではなく、トイレのサインとデザインの話をしたいと思う。

オランダでいくつかのミュージアムなどを見たなかで、印象に残った男女共用のトイレがある。たとえば、アムステルダム市内にあるアルティス動物園のトイレのデザインだ。

アルティス動物園のトイレとそのサイン(2023年、アムステルダム・オランダ)

園内には上の写真のように、男性と女性が並んで立っているピクトグラムのサインが設置されている。そのうちのひとつは、入口をはいるとまず手洗いスペースがあり、その先が男性用個室と女性用個室、車椅子・おむつ交換用の個室に分かれる造りになっていた。

アルティス動物園のトイレのサイン(2023年、アムステルダム・オランダ)

また、園内の別のトイレは、男女共用トイレと、車椅子・おむつ交換用トイレの2つに分かれていた。男女共用トイレのほうは中に個室が並んでいて、そこに男性も女性も並ぶようになっている。このときはわりと混雑していて、たまたま女性ばかり5人くらい並んでいた。見ていておもしろかったのは、子ども連れで入ってきた男性が、女性ばかり並んでいるのを見て「おぅ!」と驚き、一度ドアの外を見て男女共用だということを確認してから、決まりが悪そうな顔をして入り直してきたことだ。オランダでは男女共用トイレがわりと普及しているように見えたが、そうは言っても異性ばかりの中に入っていくのはやっぱり気まずいんだなぁと思った。

アムステルダム市立美術館のトイレも、ちょっと興味深い造りだった。

アムステルダム市立美術館のトイレ(2023年、アムステルダム・オランダ)

写真では少しわかりにくいが、トイレの入口らしきドアが2つあり、ひとつには「TOILET」のサインがあるが、もうひとつにはサインを剥がしたような跡だけがある。ドアを開けてみると、どちらも中にトイレの個室が2つずつあった。以前は男性用トイレと女性用トイレだったのを、どちらでも良いように名前だけ変えたのだろうか(変えたというか、剥がした?)と想像したのだが、どうなんだろう…。

また、オランダでは、ピクトグラムではなく「WC」の記号でトイレを示すサインを何箇所かで見かけた。たとえば下の写真では、車椅子やおむつ交換台のピクトグラムはあっても、男性/女性の人のかたちのピクトグラムは使われていない。

ナインチェ博物館のサイン(2023年、ユトレヒト・オランダ)
アムステルダム駅のサイン(2023年、アムステルダム・オランダ)
ライデン駅のサイン(2023年、ライデン・オランダ)
ホテル内のサイン(2023年、アムステルダム・オランダ)

ピクトグラムはわかりやすくて便利だが、「男はズボン、女はスカート」という価値観を(悪気はないけど)視覚的に表現してしまうという点で、多様性が重視される時代には合わなくなってきたのかもしれない。「WC」のマークは日本ではあまり見なくなったけど、むしろあえて男性/女性を強調しない「WC」マークにしたんだろうか。本当にそういう意図なのかは知らないが、なるほどなとも思った。

とはいえ、「WC」を読めなかったり意味を知らなかったりしたらサインとして役に立たないわけで、やっぱりそれは困る。公共施設のトイレを案内するために人のかたちのピクトグラムを使うのは、国際標準化機構(ISO)のPublic information symbols(一般案内用図記号)というカテゴリーのなかでも規定されている。もちろん、オランダでもやはり多くの施設ではピクトグラムが使われていた。

アムステルダム国立美術館のサイン(2023年、アムステルダム・オランダ)
アムステルダム・スキポール国際空港のサイン(2023年、オランダ)
STRAATミュージアムのサイン(2023年、アムステルダム・オランダ)
ゴッホ美術館のサイン(2023年、アムステルダム・オランダ)
ユトレヒト中央博物館のサイン(2023年、オランダ)。ピクトグラムが目立つように使われているが、左上に「WC」の表示もある。
デン・ハーグ市美術館のサイン(2023年、オランダ)。ここも、ピクトグラムと「WC」の併用パターン。

オランダに限らず、公共施設のトイレで男性/女性の人のかたちのピクトグラムが使われている例は多い。普段、ピクトグラムを見るとつい写真を撮ってしまうので、手元にはこういう写真がたくさんある。

パディントン駅のサイン(2019年、ロンドン・イギリス)
フランクフルト国際空港のサイン(2023年、ドイツ)
ニューアーク・リバティー国際空港のサイン(2017年、アメリカ)
大学構内のサイン(2017年、シンシナティ・アメリカ)
ニューヨーク市内のサイン(2017年、アメリカ)
ヴァンター国際空港のサイン(2015年、ヘルシンキ・フィンランド)
オークランド市内のサイン(2018年、ニュージーランド)

海外で目にして印象に残った例としては、ほかにアメリカ・カリフォルニア州のトイレのサインがある。人のかたちのピクトグラムに加えて、下の写真のように「男性=△」「女性=○」の出っ張りを付けることが推奨されているのだという。これにより、視覚に不自由があっても手で触ることで男性トイレ/女性トイレを区別できるようになっているそうだ。

ロサンゼルス国際空港のトイレのサイン(2018年、アメリカ)
ロサンゼルス市内のサイン(2018年、アメリカ)
ロサンゼルス民芸美術工芸博物館のサイン(2018年、アメリカ)。人のかたちのピクトグラムはなく、△と〇だけだった。

ところで日本では「男性=青(寒色系)」「女性=赤(暖色系)」に色分けをしたピクトグラムをよく目にするけれど、じつは海外ではそうでもない(注1)。これは、色の区別がつきにくい色覚を持った人への配慮でもあるのだろうが、そもそも慣例として男女の色分けが定着していないからだ。普段日本の大学のデザイン関係の授業でそんな話をすると学生たちはみんな驚くが、それだけ国内では男女の色分けのピクトグラムが定着しているということだろう。

JR秋葉原駅のサイン(2019年、東京都)
中部国際空港のサイン(2017年、愛知県)
JR久留米駅のサイン(2022年、福岡県)
薬局の店内のサイン(2020年、愛知県)
池袋駅のサイン(2023年、東京都)
免許更新センター内のサイン(2020年、愛知県)

色の違いは文字や記号の形状よりも直感的に把握できるから、この慣習が定着していることもよくわかる。日本の案内用図記号を策定している交通エコロジー・モビリティ財団の資料にも、次のように書かれている。「わが国では、男子の図記号に寒色系の色彩が、また女子の図記号に暖色系の色彩が多く使われています。男女の識別性能を向上させるために、そのような慣例色を用いることは現実的な判断です。(注2)」

たしかにそのとおりで、色で区別がつくことは多くの人にとっては便利だ。でも一方で、子どもの頃から「男は青、女は赤」という慣習のなかで暮らしてきて、「女の子だからもっと可愛い色の服を」なんて言葉にモヤっとした記憶がないわけでもない。だから、色で男女の別を表現しないピクトグラムを使うことにも一理ある気がする。実際、日本でも男女の別を青/赤で色分けしていないトイレのサインを目にする機会も増えているように思う。

名古屋市・栄駅のサイン(2023年、愛知県)
横須賀美術館のサイン(2019年、神奈川県)
すみだ北斎美術館のサイン(2019年、東京都)
金沢21世紀美術館のサイン(2021年、石川県)。トイレの入口のサインは青/赤で表示されているが、方向を示すサイン(誘導サイン)は黒で表示されている。
JR博多駅のサイン(2014年、福岡県)。在来線/新幹線/出口の種類が赤・黄・青で色分けされており、男女の色分けはない。

ただし、色分けしなければしないで、今度はどっちが男性トイレでどっちが女性トイレかわかりにくいと感じる人もいる。たとえば下の写真は、勤務先の建物の中で見つけたトイレのサイン。正式に設置された男女マークのピクトグラムは黒色だが、あとから誰かが青と赤の貼り紙を追加している。たぶん、慌ててトイレに駆け込む人が間違えないように、気を利かせたんだろう。

大学キャンパス内のサインと貼り紙(2019年、愛知県)

もうひとつ、こちらはオフィスなどが入っている駅前の大きなビルの中のトイレ。もともとはグレー地に白いピクトグラムだが、やはり水色とピンクの貼り紙を追加してある。

オフィスビル内のサインと貼り紙(2016年、愛知県)

慣習に基づく使いやすさを優先するべきか、性別による固定観念を崩していくべきか、たかがトイレのピクトグラムひとつに過ぎないけれど、身近だからこそ大事な問題でもある。誰だってトイレに入らずに暮らしていくわけにはいかないんだから、他人ごとではないはずだ。トイレのことをおおっぴらに話すのも恥ずかしいし…とか、ジェンダーがどうとか言いはじめるのも大げさでは…みたいな感覚があるかもしれない。ただ最近では、ジェンダーや多様性を尊重する文脈でトイレの話題がニュースに取り上げられる機会も増えた。

デザインとの関連で言えば、日本では案内用図記号のJIS改正に伴って、交通エコロジー・モビリティ財団の「標準案内用図記号ガイドライン2020」に「男女共用お手洗い」「こどもお手洗」などのピクトグラムが追加された(注3)。男性か女性かだけではないトイレの選択肢を、視覚表現の面からも支えていく必要性が増しているのだろう。実際に、従来の男女別とは違うかたちのトイレを見かける機会も増えて、なるほどこういうピクトグラムを使っているのかと興味深く思うことがある。

テート・モダン(美術館)のオールジェンダートイレのサイン(2019年、イギリス)(注4)
テート・モダン(美術館)の車椅子用、赤ちゃん連れ用トイレのサイン(2019年、イギリス)。男性マーク+赤ちゃんマークの個室の他に、女性マーク+赤ちゃんマークの個室もあった。
シンシナティ空港のファミリートイレのサイン(2017年、アメリカ)
JRお茶の水駅の多機能トイレのサイン(2023年、東京都)。標準案内用図記号にはまだないファミリートイレのピクトグラムが使われている。
ロサンゼルス市内のサイン(2018年、アメリカ)。男女共用トイレに、△と○を組み合わせたマークが使用されている。

現実的には、多機能トイレやオールジェンダートイレに変えようと思っても、施設自体をつくり変えるのは難しい場合もあるだろう。ただ、男性用/女性用の個室に分けるのをやめて、冒頭で紹介したオランダの男女共用トイレのようにサインだけ貼り替える方法も、たしかにいいなと思う。そういう例のひとつとして、最後にもうひとつだけ、オランダで見かけたサインを紹介したい。歴史的遺産になっているシュレーダー邸を見に行ったときのトイレのサインだ。

シュレーダー邸の受付近くのトイレのドア(2023年、ユトレヒト・オランダ)

建物の隣に受付やグッズ売り場があり、その中にトイレの個室が2つある。もともとは男性トイレと女性トイレだったんだと思うけど、今は2つともに同じサインが貼られている。このサインがちょっと珍しくて、見る角度によってピクトグラムの絵柄が変化し、男性マークにも女性マークにも見えるようになっている。子どもの頃に不思議な絵として見たことがあるような、いわゆるレンチキュラーレンズを使った仕掛け。遊び心があって、なんだか楽しい気持ちにさせられた。

多様性を尊重する社会を、デザインの立場からどう実現できるのか。真面目な問題をこういうライトさでさくっと片づけるセンスって、けっこう貴重だ。いつでも使える手じゃないけれど、できればこういう軽やかさも見習いたいなと思う。

注1:海外では唯一、仁川国際空港で男女色分けされたトイレのピクトグラムを見たことがある。
注2:交通エコロジー・モビリティ財団、https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/data/zukigo_naiyo.pdfより
注3:交通エコロジー・モビリティ財団、https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/tourism/122483c2b4666b8e91b3bbe10d853d78.pdf参照
注4:写真は、村田麻里子さん提供。

(注4以外の写真は、すべて筆者撮影。)