《日常のなかのデザイン日記 04》
一枚の写真ができるまで

03/08/2024
Masako Miyata
宮田雅子

この3月、雑誌『5: Designing Media Ecology』がリニューアルして新たにスタートする。これを書いている今はちょうど、雑誌のデザイン制作まっただ中である。そこで今回は、街中で見かけるデザイン観察日記とは少し趣向を変えて、今回の表紙のデザインができあがっていく過程を紹介してみたい。

『5: Designing Media Ecology』の表紙の画像は、第1期からずっと中央に数字の「5」が配置されたレイアウトを使ってきた。

第1期『5: Designing Media Ecology』の表紙と裏表紙

表紙の画像には、じつは結構こだわりがある。CG合成などで「5」の画像を写真に追加するのではなく、実体があるモチーフを制作してそれをカメラで撮影するなどして画像をつくっている。たとえば第1期1号の表紙画像は、感光紙で「5」の画像を浮き出させたモチーフにしている。第2号はミカン果汁を使ったあぶり出し、第3号はプロジェクタで地面に「5」の文字を投影、第4号は透明フィルムに文字をプリントしてフィルム越しに風景を撮影、といった具合である。手間も時間もかかるが、あえて紙の雑誌をつくるなら、表紙の画像も実体のあるものにしたいと思って制作してきた。

第2期『5: Designing Media Ecology』の発行にあたって、表紙のレイアウトはリニューアルしたが、メインに使う画像の制作方法は引き継ぐことにした。そこで第2期1号のために作ったのが、冒頭のモチーフだ。木の板に細い釘を打って、そこに細い刺繍糸をめぐらせて「5」の形が現れるようにした。最初に「こんな感じの写真を撮りたいな」と考えたときに書いたメモが残っている。

このメモに至るまでにいくつかの腹案があったのだけど、最終的にカラフルな刺繍糸と板を使おうと決めてからは、順調に楽しく作業を進めていった。メモにもあるとおり、まずは材料の買い出しから。新宿の手芸屋さん、愛知県長久手市にある大学近くのホームセンターをのぞき、さらにネット通販も使って、使いたい材料を買い集めた。

上の写真は、ホームセンターで手に入れた品々。手元に工具がなかったため、ノコギリやらカナヅチやら、ゼロからの買い出しになってしまった。職場は文系の大学なので、工作室などの設備もない。研究室のなかでギコギコと木の板を切っていると、「うちの大学でほかにこんな作業している人、いるんだろうか…」と不思議な気持ちになってくる。幸い不審者として通報されることもなく、順調に下地づくりの作業へ。

ちょうど良いサイズに切った板の木目の色を少し白っぽく調節するために、ジェルステインという塗料を何度か重ねて塗っていく。木の板そのままの色だと少し生っぽい感じが出てしまうので、写真を撮って表紙に使ったときにちょうど良い背景になることを目指して濃さを決める。

この板に、「5」の文字の形の紙を乗せて、上から細い釘を打ち付けていく。この釘に刺繍糸を絡めていくことで、板の中央に「5」の文字が出るようにしたい。糸の密度を想像しながら、釘の間隔を決めていく作業になる。

パチンコ台のようだが、これで土台は完成。次は、この釘に刺繍糸を絡ませる。事前に、右上あたりから赤→オレンジ→黄色→黄緑→緑→水色→青→紫という円環状の配色にすることを考えていたので、そのイメージに近づくように糸の色を選びながら少しずつ張りめぐらせていく。

ランダムに糸を絡めているように見えるが、じつは緻密に計算されている。……というのは嘘で、実際のところはわりと行き当たりばったりな感じで糸を張っている。そのため、全周360度のなかで色の配分が偏ってしまい、ちょっと戻ったり修正したりしながら作業を進めていく。

こうして完成させたのが、下の写真のモチーフ。

正面からだとはっきり「5」の文字が見える。表紙のメイン画像としてちょうどいい案配を見極めて、糸を張る作業は完了。ちなみに、板を少し横に傾けると、「5」の文字よりも釘と釘をつなぐ糸の方がよく見えてくる。

大きなネットワークの中心になっているように見える釘もあるけれど、辺境の地のような釘もある。糸と糸の間には不規則な重なりと隙間が生まれ、それぞれが思い思いの多角形を描き出す。ひとつの糸をたどっていくと、いつの間にか隣の色に変化して、ここからが何色とは言い切れない曖昧さの連なりが全体を構成している。今回の特集テーマ「間(あわい)の思想」から連想したイメージを、あまり直接的になりすぎず、かといって意味不明にもなりすぎない程度に、視覚的な面から表現できているといいのだけど、どうだろう。

第2期『5: Designing Media Ecology』第1号の表紙は、こうした手順で完成させた写真を使って制作している。このエッセイを書いている時点では、まだ印刷工程にまでは進んでいないのだけど、完成した第2期1号は、2024年3月のINSTeMのコンベンションでお手にとっていただける予定だ。中身の記事がもちろん第一なんだけど、お時間があったら表紙の写真にもちょっとだけ目を留めていただけると、とっても嬉しいです。

※写真と画像は、すべて筆者による撮影・作成。

(『5』第2期1号は2024年3月9日からINSTeMオンラインショップで販売中です)