《日常のなかのデザイン日記 05》
そのゴミはこのゴミ箱へ

08/02/2024
Masako Miyata
宮田雅子

今年の夏は暑い。毎年そう言っている気がするが、今年は本当に暑い(と、去年もそう言った気がする)。

そんななか、帰省や旅行で遠出する人も多いだろう。水分補給のためにペットボトルのドリンクを持ち歩く機会が普段以上に増えて、飲み終わったペットボトルを駅や空港のゴミ箱に捨てることもあるに違いない。そのとき、ゴミ箱のかたちにちょっと注意を向けてみると、そこにもデザインの工夫が込められていることを発見できるかもしれない。

ここ数年、公共空間のゴミ箱の写真を撮り集めてきた。最初に意識して写真を撮ったのは何の機会だったかあまり覚えていないものの、手元には駅や空港、公園や大学キャンパス、商業施設などで撮ったゴミ箱の写真がだいぶ集まってきた。それらを眺めてみると、多くの人が行き交う混み合った場所で、燃やせるゴミやビン・カン、ペットボトルなどをきちんと分別して入れてくれるように、ゴミ箱の上面や側面の表示、形状に工夫がなされている。

JR在来線ホームのゴミ箱(JR名古屋駅、2021年)

たとえば上の写真は、2021年にJR東海の名古屋駅ホームで撮ったものだ。左から順番に「ペットボトル」「新聞・雑誌」「ビン・カン」「その他のごみ」という分別が書かれているのと同時に、ゴミの投入口がそのゴミ自体の形状に合わせてある。たとえばペットボトルは小さい円形の投入口に、新聞や雑誌は薄い紙状のものを入れやすい細い長方形の投入口に捨てる。自分の手元にあるゴミの形状と入口の形状が対応していることで、文字で書かれた情報を読む前に直感的にどこへ入れればよいかがわかる。

ゴミの投入口を丸と四角で区分する工夫はだいぶ以前からあったが、形状の種類を増やしたり色による識別と組み合わせる例など、分別方法を伝えるための工夫がさらに発展してきているように思う。ゴミの分別の種類が増えたこととも関係しているのかもしれない。

先ほどと同じ名古屋駅の新幹線ホームのゴミ箱。投入口のかたちがゴミのかたちに対応しているだけでなく、「新聞・雑誌」や「ペットボトル」の形状のピクトグラムが描かれている。また、同じ円形でも「ペットボトル」の投入口の円の方が「ビン・カン」の投入口よりもひとまわり大きい円になっている。(JR名古屋駅、2021年)

駅や空港など多くの人が行き交う場所では、当然ゴミもたくさん出る。正しく分別してほしいが、急いでいたり手荷物が多かったり子ども連れだったりと、落ち着いてゴミ分別の区分を読んでいる余裕がない人もいる。ついうっかり、分類を誤ってゴミ箱に入れてしまうこともあるかもしれない。悪気はないのに間違えてしまうとしたら、それは捨てた人の責任というよりも、わかりにくい形状のゴミ箱をつくったデザイナーのせいなのではないか。

ゴミの分類に限った話ではない。デザインが適切でないために、ユーザにとって使いにくかったり、使い方がわからないものになってしまう例は他にもある。たとえばおしゃれなビルの中で、部屋のドアの開け方がわかりにくくて入れない…といった経験がある人もいるかもしれない。世界中のデザイナーに多大な影響を与えた認知心理学者のドン・ノーマンは、『誰のためのデザイン? 増補・改訂版』*の冒頭に、こう書いている。

「私は引いて開けるドアを押してしまったり、押して開けるドアを引いてしまったり、スライドするドアに突っ込んでしまったりする。」

こんな経験をすると、誰でもつい恥ずかしくなって「間違えた自分が悪い」と思ってしまうが、ユーザー中心設計の考えによれば、間違えるのはユーザーの理解不足のせいではなく、デザインが悪いからだ。ユーザーは、身のまわりにある音やかたちなどの手がかりを通して適切な行動をとる。ゴミ箱の話に戻れば、たとえば新幹線を降りた乗客はホームの人の流れに乗って改札に向かいつつ、ゴミ箱の周辺に人が滞留しているのを見て自分もそのあたりに立ち止まり、お弁当やお菓子の空き箱でいっぱいになっているゴミの投入口に自分も手にしていたお弁当箱のゴミを入れ、空のペットボトルは丸い投入口に入れる。文字やピクトグラムの案内だけでなく、周囲の環境や状況から意識的/無意識的に自分の行動を選択する。公共空間のゴミ箱は、そんなユーザーの行動を前提にデザインされていなければならない。

そういえば、赤ちゃん向けのおもちゃに、丸・三角・四角のブロックを同じかたちの穴に入れて遊ぶロックブロックというのがある。手に持っているものをピッタリ合うかたちの穴に入れることに、人間は本能的に快感を覚えるのかも? ……などと大げさなことを考えながら、出かけた先のゴミ箱を見ていると、それぞれ工夫があることがわかってきて、飽きることがない。

博多駅のこの例では、ビン・カンの投入口は円形、ペットボトルの投入口は正方形と、同じようなドリンク類のゴミでも区別している。また、それぞれの文字が赤、青、緑、黄色に分けられている。(JR博多駅、2022年)
こちらもビン・カンは円形、ペットボトルは正方形。また、ゴミの種類ごとにピクトグラムも色分けされて、目立つ大きさで描かれている。(JR新大阪駅、2022年)
ここも大きめのピクトグラムが使われている。(大阪モノレール万博記念公園駅、2021年)
ここもピクトグラムあり。投入口のかたちは大きな四角と小さな丸の2種類だけだが、色が使われている面積が大きいので、遠くから見てもなにか違う種類なんだろうと理解しやすい。(京都市営地下鉄松ヶ崎駅、2024年)
ピクトグラムが大きめに描かれている。「その他のゴミ」にビン・カンや新聞・雑誌を入れないように、禁止を意味するピクトグラムも小さく載せられている。(JR東京駅、2024年)
こちらは「もえるゴミ」「もえないゴミ」という分け方で、地域や施設によって分別の仕方が違うことがわかる。また、色分けにピンク色が使われているのも他の施設ではあまり見かけないので珍しく感じた。文字の上に書かれた分別の種類の図は、ピクトグラムというよりもイラストに近い。(新千歳空港、2021年)
日本語、英語のほかに、中国語とハングルでも分別の種類が示されている。色分けやピクトグラムも使われている。「ビン・カン」にペットボトルも捨ててよいことがわかるように、あとから貼り紙が追加されている。(JR久留米駅、2022年)

駅や空港以外でも、商業施設や観光地、大学のキャンパスなど、大勢の人が利用する場所では同じような工夫がされているゴミ箱を見かけることがある。それらは、それぞれの施設の雰囲気や利用者の特徴に合わせてデザインされていることもわかる。

パーキングエリア内のゴミ箱。かたちと色での分類に加えて、文字では日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、ハングルが書かれている。北海道だから、海外からの観光客が多いのだろうかと想像した。(北海道北広島市、2021年)
六本木ヒルズのゴミ箱。「ビン・カン・ペットボトル」の横に、「キャップ」の投入口もある。また、ビンやカンのピクトグラムが上下逆さまの向きに描かれているのは、ドリンクの中身を空にしてから捨ててほしいという意味だと読み取れる。(東京都港区、2024年)
東京ミッドタウンのゴミ箱。屋外にあり、タバコの吸い殻・犬のフンを捨てないように禁止マークが描かれている。(東京都港区、2022年)
東山動植物園のゴミ箱。マスコットキャラクターが描かれて賑やかな印象だが、ゴミの分別の色分けが機能している。(愛知県名古屋市、2022年)
こちらは名古屋市内の大学のキャンパス。学生が利用することから、コンビニの袋やカップ麺のパッケージ、不要になったCD-Rなど、かなり具体的な対象がイラストで示されている。(愛知県名古屋市、2024年)
こちらも大学のキャンパス内。大きめのピクトグラムと色分けで区別しやすい。(福岡県福岡市、2024年)
同じ大学の建物内のゴミ箱。「燃えるゴミ」「あきかん」「あきびん」などのピクトグラムと文字は、紙に印刷されたものが貼り足されている。屋外のゴミ箱で使っているピクトグラムと同じ絵柄を使っており、細かな気づかいに感心した。ちなみに先ほどの久留米駅のピクトグラムも同じ絵柄のように見える。(福岡県福岡市、2024年)
こちらも大学キャンパス内のゴミ箱。落ち着いた雰囲気に合わせて色数が抑えられている分、ゴミの投入口のかたちや、ピクトグラムと文字で明確に分別がわかるようになっている。(大阪府大阪市、2022年)
これも大学のキャンパス内。「もえるごみ」のピクトグラムは、新大阪駅の例と同じ絵柄のように見える。(東京都武蔵野市、2024年)

ここまで日本の事例を紹介してきたが、海外でも同じように、投入口の形状や色に工夫が施されたゴミ箱を見たことがある。そうしたゴミ箱を使っている場所や数自体はまだ多くはないように思うが、地域や施設の特徴に加えて、文化や習慣の違いも背景としつつ、これからもまだまだ新しいゴミ箱が工夫されていく余地があるのかもしれない。そう思うと、これからもゴミ箱探しが楽しみになってくる。

2019年にロンドンのテート・モダン内のカフェスペースで目にしたゴミ箱。右端は紙類とカンの資源ゴミ、隣の黄色い投入口は食品リサイクル、その左の緑色はガラスのビン、左端はその他のゴミ、という分類になっている。説明が多くてちょっと分かりにくいが、分別の種類を投入口のかたちで伝えようという意図は読み取れる。(イギリス・ロンドン、2019年)
ソウル市内のバス停の近くにあったゴミ箱。「一般ゴミ」と「資源ゴミ」の分類になっている。英語とピクトグラムがあるので、ハングルを読めなくても意味はわかったし、丸い投入口はペットボトルや空き缶用だろうと見当をつけやすかった。(韓国・ソウル、2024年)
こちらはソウルの図書館内のゴミ箱。分別は「一般ゴミ」「プラスチック」「紙」「ペットボトル」「ビニール」「ビン・カン」の6種類。投入口のかたちはすべて長方形だが、色分けとピクトグラムを使って伝えようと工夫されている。(韓国・ソウル、2024年)
オランダの鉄道駅のホーム上にあったゴミ箱。右のグレーの投入口には「一般ゴミ」、左の青い方には「新聞、雑誌」と書かれている。オランダ語はまったく読めないが、ピクトグラムと投入口の形状のおかげで安心しでゴミを捨てることができた。食べ残しを表すピクトグラムの定番はリンゴの芯とか、日本だったら食べかけのおにぎりのイラストもあるかなと思うが、オランダだとピザなんだな…と、素朴におもしろかった。(オランダ・ライデン、2023年)

ここまでずっとゴミ箱の写真ばかりで申し訳なかったので、最後にひとつだけ風景写真を載せておこう。今回のエッセイの冒頭に使ったゴミ箱の写真は、ロンドンのケンジントン・ガーデンズで撮ったものだ。画面左下の遠くの方に、そのゴミ箱が小さーーーく写っている。雨風で劣化した古めかしい木の箱に近代的な概念である分別を示すピクトグラムが貼り足されていたり、お散歩中の犬がしたフンを捨てるゴミ箱がわりと新しそうな感じで並んでいたり、おまけにそれがなんだか郵便ポストみたいなかたちだったりして、こういう見慣れなさも嫌いじゃないんだよね、と思ったりもするのです。

10月下旬、平日のお昼どきのケンジントン・ガーデンズ(イギリス・ロンドン、2019年)

* D.A.ノーマン 著、岡本明、安村通晃、伊賀聡一郎、野島久雄 訳、『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ――認知科学者のデザイン原論』、新曜社、2015年

※写真はすべて筆者による撮影。無断で転載・転用しないようにお願いします。一部写真に加工を施したものがあります。